-其の零 十六夜月の出逢い―

3/19
前へ
/44ページ
次へ
 別に、他者への情がないわけでもない。ただ、そこまで土方の心を、捕らえられる者がおらぬだけ。 -宛てもなく気儘に京市中を散策していた土方だったが、ある橋の手前まで差し掛かった時に、ふと脚を止めた。  薄闇の中でわかりにくかったが、よく見ると橋の中央辺りの欄干部分に『小さな影』が蹲っている………ように見える。     -何時から、其処にいたのか-  遠目でもわかるほど、その影は〝ずぶ濡れ〟であった。と言うことは雨が止む以前、少なくとも〝ずぶ濡れ〟になるほどの時間、外にいたことになる。  それに、今は夜が更けた刻限だ。治安の悪い、このご時世に出歩いていたとなれば、余程の理由があってのことか。さもなくば、ただの馬鹿か・死にたがりか、のどちらかだ。 (………何だ、ありゃ。(こども)?こんな刻限に………『(あやか)し』か?)  土方は不審に思ったものの。何故か、そのまま放っておくわけには、いかないような気がした。ゆっくりと慎重に近付く。  土方に気付いてないわけがないのに、その『小さな影』は『ぴくり』ともしない。その微動だにしない様子から、生死は確認出来ない。
/44ページ

最初のコメントを投稿しよう!

29人が本棚に入れています
本棚に追加