-其の零 十六夜月の出逢い―

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 土方は何故か咄嗟に、そう訊ねていた。『このまま此処に放っておいてはいけない』と、そんな気がしていた。  何故〝そう思った〟のか?土方自身にも、その理由はわからなかったけれど………。 「…………………?」  些か唐突とも思える土方の問いに案の定、少年は困惑しきり、と言う表情をしている。 「俺と来るなら、俺が与えてやるよ。お前の『居場所』と『生きる意味』を。」  土方は笑みを浮かべてそう言うと、自分を見上げたままの少年に手を差し伸べた。  少年は暫く微動だにしなかったが、やがて『おずおず』と差し伸べられた土方の手に(おの)が手を重ねた。 -その瞬間。二人の脳裏に〝朧気な情景〟が浮かぶ。陽の光に満ち溢れ・花咲き乱れる中、向かい合う二人の人物。  その人物達の顔が見えそうだと思った途端〝朧気な情景〟は霧散した。土方と蒼はお互いの表情を見て、恐らく〝同じ情景〟を見たであろうことを察した。 -何故だか、酷く『懐かしく』。それでいて  とても『哀しい』気持ちになった-  胸が熱く・温かくなるような感覚と、胸が『きゅっ』と締め付けられるような感覚。
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