第1章

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 そのなんでもない筈の単語が、ベトの胸を打った。 「……ったく、それこそどうかしてるよな?」  質問形式のそれは、誰に向けた言葉なのか。  ベトは黙々と歩きながら、考える。  今日はおそらく、途中の山で野宿となるだろう。  太陽が西の空に、徐々に沈んでいくのが見える。  単独行動は嫌いではなかったが、それにしてもやはりベッドで眠れないというのはあまり喜ばしいものではなかった。  まぁ、仕方ないが。  向かっているのは、エルシナから20キロほど離れた盆地にある、ハントスという街だった。  王都からは離れた場所にありそれほど栄えているというわけではないが、しかしこのレイティア国で一番の規模を誇る聖堂を有していることで有名な街だった。  名は、サミオール大聖堂。  ベトの用事は、そこにあった。 「もう、二年前になるのか……」  ベトは呟き、焚火をくべた。  パチパチ、と火花が散る音が耳に届く。山では火が、一番身を守ってくれる。  獣は無意識に、火を恐れる生き物だからだ。  だから火さえ絶やさなければ、それほど恐れるものではない。
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