第1章

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 マントを毛布代わりに身体に巻き付け、大きな枯れ木の幹の上に、横になる。  まるで団子虫にでもなったような気分。  山と、一体化しているような。  空を仰ぐと、満点の星空。  これだけが、唯一の利点だった。  楽しみ、と言った方が近いだろう。  しかしそれも、一瞬。  宝石箱を散らしたよう、といえば聞こえもいいが――宝石をいつまでも眺めているような趣味は、ベトにはない。  瞼を閉じる。  そして思いを馳せる。  二年ぶりのエルシナ。  信仰心がそれほどではないベトをして、あの大聖堂と、神父と交わした会話は興味をそそられた。  果たして二年ぶりに自分が行くことで、どうなるのか。 「――どうもなんないかもしんねーが」  あごひげをジョリ、と触り、ベトはそのまま眠りについた。  翌朝は、五時に目覚めた。  もちろんベト自身狙ってその時間に起きたわけではなく、感覚で、だ。  これ以上早いと足元が見えないし、遅いと移動距離が短くなるという、絶妙な時間帯だ。  歩き始めてからしばらくして、懐中時計を見て、確認した。  これも、サミオール大聖堂で受け取ったものだった。
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