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手を振って、去っていく。
それを無言無表情無動作で見送り、アレは人心地つく。
苦手だった。
理由なき、好意が。
恐れていた。
アレは、ひとを。
今でも。
それは無理もない事だった。
ずっとベッドの上で祖母とだけ会話を交わし、そこから窓を見て暮らしてきて――ひとの無関心も、悲哀も、そして狂気と暴力も、見てきた。
それ以外、見てきたことがない。
一度として子供は許されることも、パンを与えられることはなく――代わりに酷い罰を、その身に刻みこまれていた。
祖母も自分を、所有物のひとつのように見ていた。
だから苦手だった。
だけど生きるためモノのように振る舞い、それが正しいと信じていた。
なのに実際は、祖母は本当に優しかった。
自分の感覚は、何一つとして信じられるものではなかった。
そしてそれは同時に、世界というものがより遠くに過ぎ去ったように錯覚させた。
わからない、ということほど怖いものはなかった。
だから一定の距離が、必要だった。
なのにベトに対してだけは、安心できた。
好意のようなものが、見受けられないから。
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