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建物に入る直前、アレは声を漏らした。
そこには、アレが会って、一緒に荷馬車でここまで一緒して――そして今まで一度も話したことがない相手が、玄関の脇に座り込んでいたから。
「…………」
あぐらをかき、そして自身のものだろう弓を熱心に手入れしている。
弦を張り、固定し、状態を見る。
理由はない。
なぜかアレは、その光景を見つめていた。
「……おーい嬢ちゃん?」
上の階から、スバルの声がかかった。
それにハッ、と我に返る。
どれくらい見ていたのかわからない。
そしてそれに彼も、微動だにしない。
ご飯を食べないのだろうか?
そんな子供じみた発想さえ出てしまうほど、彼は弓の手入れに没頭していた。
「――お昼ご飯、食べましょうか?」
「え……」
その呟かれた声が、すっと音もなく立ち上がり弓を背中に担ぎ直し伏し目をしている目の前の男だと気づくまで、4秒ほどの時間が必要だった。
「あ、はい……その、」
「マテロフ・アルケルノ。マテロフで、結構です」
そう言って弓使いマテロフは、先行して二階の食堂に続く階段を上っていった。
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