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黒薔薇はじっと窓の外の真っ赤な月を見つめていた。
ここは我々の世界とはまた別の世界。 その世界を統べる統治者が代々住まう宮殿 Shangri-la。 青い水晶で出来た玉座に深くかけ、当代の女王は物憂げに昇りゆく月を眺めていたが、つと身じろぎして呼びかけた。
「アマツ、アマツはおらぬか?」
「はい、アマツはここに」
現れた魔術師の青年は恭しく平伏す。 黒薔薇はしばしの沈黙の後、口を開いた。
「……『器』が生まれる兆しが現れた」
平伏したままのアマツの背中が強張った。 黒薔薇は眉根を寄せる。
「やはりぬしらも気付いておったか。 赤い月、星の運行、他至る所に兆候が出ておるから当然か」
「……はい。 皆、懸念しておりました」
「『奴』が必ず狙いにくるであろうからな」
玉座の間を苦い沈黙が支配する。 次に沈黙を破ったのはアマツだった。
「器はここではなく、人間界に生まれ落ちるとの予見が出ております。 あの者どもが器を我が物にするのは何としても阻止せねばなりませんが、本格的に兵を動かしてこの世界の守りを疎かにしては」
「そこにつけ込まれ、目も当てられまい。 ………時にアマツ」
「は」
「今自由に動ける『冒険者』はどれだけおる?」
アマツは一瞬怪訝な顔をしたが、すぐに黒薔薇の意図に気付いて小さな声で呪文を唱え、一冊の名簿を呼び出した。
「ふむ……この顔ぶれ、この人数であるならば」
黒薔薇は丁寧に名簿を読みこみ、そして決意した。
「アマツよ。 ぬしとこの冒険者達を見込んで、頼みがある」
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