何だか嫌な毎日から逃げ出したくて

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 僕はお金を持ってきたとはいえ、ホテルなんかには泊まれない。ネットカフェだって泊まれないだろう。考えた末、僕はこのままひこじいの家まで行くことにした。それから歩いて数分、まるで家自体も人を嫌うかのようにポツンと建った古い小さな一軒家が見えてきた。ここがひこじいの家だ。僕はインターホンを押した。 「誰かね?」 「ひこじい、僕だよ。秋信」  鍵がガチャリと開く音がして、中からひこじいが出てきた。  白髪頭につり上がった白い眉。いつも怒りを押し殺しているような声。  これがひこじいだ。 「秋信。また近所の悪ガキにいじめられたか?」 「違うよ。僕は家出をしてきたんだ」 「ほー。家出とな」 「だから家に入れて。僕を匿って」 「家に入るのは勝手だが、しばらくしたら家に帰りなさい」  そう言ってひこじいは家に入ってしまった。僕は門を開け、家にお邪魔する。  家の中は、壁一面レコードが収納されていて、いつも音楽がかかっている。今日はジャズがかかっていた。  ひこじいはいつものように黙ってオレンジジュースを出してくれた。 「あ、僕クッキー持ってるよ」  僕はリュックから クッキーを取り出した。封を開け、袋ごとテーブルに出す。 「食料か。こりゃ本格的な家出じゃな。ただ秋信、悪いことは言わない早く家に帰りなさい」  机の上にあったマグカップでコーヒーを飲むひこじい。 「どうして? ひこじいだけは僕の味方だと思ったのに」 「どうしてわしだけが味方なんじゃ」 「みんな嫌な奴ばかりだから」 「例えば?」 「お父さんやお母さん、先生とかの大人。いつも僕の事を考えてくれないし、分からず屋なんだ。あと、お兄ちゃんにいじめっ子。すぐ暴力ふるうし」 「秋信ぐらいの年齢だとそんなもんじゃ」  そうかなあ。腑に落ちない僕にひこじいは言葉を続けた。 「秋信。わしの家に出入りしていることを誰かに話したことはあるか」 「ないよ。だってひこじい、人嫌いじゃないか。それに……」  口ごもる僕にひこじいは言葉をつなげた。 「それにわしは近所からいい目でみられていない。いうならば関わりをもたない方がいい人間じゃ」 「そこまでは言ってないよ」 「けど、あながち間違ってもおらんじゃろう。特に大人は明彦ら子供が心配だからわしとは関わらない方がいいと言う。実に正しい判断じゃ。秋信は気にかけてもらっている」
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