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僕はむっとした。でも、ひこじいに諭されても家に帰る気なんてない。そんな僕の態度を見てとったのか、やれやれ、と呟いた。
「お前さん、どうしても帰らないといのか」
「うん。どこか遠くへ行きたい。旅に出たいよ」
「旅なんて懐かしい言葉じゃな」
「旅に出たことあるの?」
ひこじいは黙ってコーヒーを飲んだ。なんだか誤魔化されている気がする。
「そういえばひこじいは昔はこの町の人じゃなかったんだよね」
僕は身を乗り出した。
「もしかして旅をしてこの町に来たの?」
なおも黙るひこじいに畳み掛ける。
「ねえひこじい、この町に来た話をして。どうして旅をしたの?」
ひこじいはおもむろにこっちを見た。
「それを話したら今日は帰ってくれるか?」
「え?」
「わしの話を聞いたら帰ってくれるか」
「うん…じゃあ、今日のところは帰るよ」
また明日訪ねるかもしれないけどね。そんな軽い気持ちで返事をした。
「聞いて後悔しないかね?」
「後悔?そんなものしないよ」
そうか、わかった。そう言ってひこじいはゆっくりと話始めた。
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