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僕は側にあった酒の空き瓶で父さんを殴った。
僕に伝わった衝撃と共に父さんは倒れた。解放された母さんは激しくせき込んだ。
「母さん」
瓶を投げ捨て母さんの元へ行った。
「治彦、父さんは」
見ると父さんは頭から血を流し、ピクリとも動かなかった。
「治彦、逃げなさい」
母さんは床に散らばったお金を拾い集めながら言った。
「なんで」
「いい? あんたは川原で遊んでいた。帰ってきたら父さんが血を流して倒れていた。あんたは何もやっていない。やったのは母さんよ」
「でも」
「驚いたあんたは母さんに父さんと同じ目にあわされると思って家のお金をもって逃げた。人に聞かれたらこう答えなさい」
「逃げるって何処へ」
「町に出て電車に乗りなさい。電車に乗って叔父さんの所へ行きなさい」
「叔父さんって、母さんと仲が悪いんじゃ」
「そんなこと言ってられないわ。落ち着いたら叔父さん家に電報を送るから。早く行きなさい!」
寒い夕暮れだった。母さんに促され、手にはあの巾着だけを持ち、着の身着のまま町へ行き最終列車で叔父さんの家……そう、この町へと行った。
「秋信、なぜ旅をしたかと聞いたな」
ごくり。秋信の喉が鳴った。
「だから旅に出たのさ」
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