第1章

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 葵も客の例外に漏れず『霧島』好きだったのだが、彼がいる時は最初の一杯にカクテルを頼むようにした。リーに作って貰うようにお願いすると、彼は嬉しそうな顔でシェイカーを準備するようになった。  日を追うごとに彼の技術は上達していった。彼が作るカクテルは素材の味を損ねないもので、完璧なものを追求するような純粋さが含まれていた。  二ヶ月後、彼は流れるような仕草で次々とカクテルを作っていくようになっていた。注文を受けた時点で頭の中では完璧に材料を把握しているようで、メジャーカップを用いずに人差し指だけの感覚で注ぎ込み動きに無駄がなかった。  また彼が作るカクテルは味だけでなく、パフォーマンスにも優れていた。客が要望すると中国雑技団のように瓶をアクロバットに浮かし、カクテルを作っている動きにさえ魅了された。何でもパフォーマンスをしながらカクテルを作ることをフレアというらしい。彼の残像を追っていると、瞬く間にコースターの上にカクテルが置いてあるといった風だ。
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