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そのまま軽く吐息をつきながら扉を閉めテーブルに戻ろうとした。だがその時、男は自分が動けないことを知った。後ろに人影を感じるのだ。思わず手を上げる形をとってしまう。
「……そのまま前に進め」
ドスの聞いた声が部屋に響く。後ろを振り返りたいが振り返ることはできない。腰の辺りに何かを立てられているからだ。恐らくこの人物は刃物を持っている。相手のいう通りに進むしかない。
「……どうやってここまで来た。警備は万全だったはずだ」
一時の沈黙が流れた後、後ろから再び男の声が聞こえた。「その警備を頼んでいるのはどこだ?」
「……なるほど」彼は落胆した後、大きく溜息をついた。「お前もスパイというわけか」
「……そういうことだ」
男は両手をさらに上げて、身を細めながら懇願した。
「……俺が悪かった。俺がしたことは確かに裏切りだ。だがちょっと待って欲しい。この場でお前が俺を殺すとしたら、敵国への大事な情報網を失うぞ。もう一度俺にスパイとして戻れるように手配してくれないか。いい情報はたっぷりあるんだ」
男の懇願もむなしく、刃物を持った人物は沈黙を貫いている。呼吸の音もなく本当に後ろに立っているのかさえ忘れてしまいそうだ。
それでも話し続けなければならない。喋り終えた時が自分の最後になるからだ。
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