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彼は息を飲んでからゆっくりと続けた。
「あそこにあるスコッチで乾杯でもしないか? いい品なんだ。俺はあれが来るのをずっと待っていた。中々手に入らないものなんだ」
腰にズン、と何かがあたる感触があった。刺されたと思ったが鈍い感触だった。
「……悪いな。あれは苦手なんだ」
押し倒されて思わず男の方へ振り返った。そこには刃物を持った男が黒服に身を包んでいた。ナイフの歯を裏返して握り直している。
「そうか。じゃあ酒はまた今度にしよう。何でもいい、俺にできる仕事をくれ。頼む」
男は立ち上がり大振りなジェスチャーを交えつつ叫んだ。その時、近くにあったスコッチウイスキーの瓶が倒れ粉々に割れた。
「この場に及んでまだ足掻(あが)くのか」
「俺はまだ秘密をばらしてない。本当だ、信じてくれ」
「……そうか。それは助かったよ」黒のスーツを纏った男はナイフを構えながらゆっくりと進んできた。月の光が徐々に男の姿を照らしていく。
「頼む。命だけは……」
「……嘘はついてないようだな」彼はナイフを向けたままいった。「だが相談する相手が悪かった。まだ暗闇で目が慣れていないようだ。俺の姿を見てから判断するといい」
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