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一歩一歩、窓際に後退すると、ナイフを持った男も一歩ずつゆっくりと前進してきた。その動きは慣れており、これが初めての殺人ではないことを表していた。
窓から漏れた月光が黒服の男に当たり始めた。その時彼の全体像が瞳に映った。
「…………そうか。お前だったのか……」
男は上げていた手を力無く下げた。この男に何をいっても無駄だと悟ってしまったのだ。
「ああ、俺にいっても何の意味もない」
一瞬の間に、男の胸にナイフが突き刺さった。声を上げることもできなかった。
「俺が殺し専門だということを、お前はよく知っているはずだからな」
第一章 青春の華花(はなばな)
1.
……今朝もやっぱり冷えるなぁ。
寒さに身悶えながら、椿原葵(つばきはら あおい)は朝風呂にどっぷりと浸かっていた。今年の冬は例年より暖かいが、それでも体中が凍りつきそうな気温ではある。
……ジャケットを羽織ることができればいいのに。
ぶつぶつと小言をいいながら風呂場で歯を磨いていく。仕事着は白衣に緋袴で統一されているため防寒服を着ることはできない。そのためこの仕事についてからは冬の朝風呂は必須だった。
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