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しばらく湯船に浸かっていると、今日のメインイベントが頭の中でぐるぐると回転し始めた。今日は午前中で仕事は切り上げで、その後リー・シュンとのデートが待っている。
しかも今日は初デートだ。
リーと会うことを想像するだけで自然と体温が上昇していく。こんなにも浮き立つ日は本当に久しぶりだ。
出会いはある日、唐突にきた。赤く染まった紅葉が刈り取られていく十一月の後半だった。三重(みえ)県にある伊勢神宮(いせじんぐう)の新嘗祭(にいなめさい)に参加した帰りに立ち寄ったいきつけのバーだ。
BAR『ソルティレイ』に足を運ぶと、見慣れない男がカウンター側に立っていた。男はマスターと向き合ってメモを必死にとっている。どうやら新しく入った従業員らしい。
彼の発音はどこかぎこちなかった。日本人のイントネーションではなく外人が話すような固い敬語だった。
カウンターに座りマスターに話し掛けると、新入りは控えめに頭を下げてきた。
「はじめまして、中国から留学に来たリー・シュンといいます。今日からこちらで働かせて頂きます。よろしくお願いします」
「こちらこそ、よろしくね」
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