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「お、えっ!?」
「入るぞ」
「あ、ちょ!? どうぞ!?」
驚愕の訪問者に狼狽える結月の前を、男は悠然とした足取りで通り過ぎ、一寸の躊躇いもなく靴を脱いで上がっていく。
靴を揃える仕草に育ちの良さが垣間見えて、ああやっぱり良いトコ出の人かと思考の隅で思いながら、そんな事よりも現状を把握せねばと混乱に固まる結月の前を、黒髪の男が「すみません」と頭を下げて通り過ぎた。
ともかく、『カード』を持っている以上、彼らが『客』である事に違いはない。
そう無理やり自身を納得させ、結月は嘆息しつつ扉を閉めた。
「適当に座って」
作業机とベッドの間、部屋の中央に位置するカーペットの上には正方形のローテーブルを置いていた。来客用の座布団を二つ並べ佇む二人に着席を促し、壁側に位置するキッチンとを隔てるカウンターをまわって、冷蔵庫を開ける。
取り出したのは結月が常飲している、近所で一番安い緑茶のペットボトル。戸棚から下ろした三つのグラスに注いで、二つを持って彼らの元へ向かおうと顔を上げると、例の男の視線とかち合った。
ずっと見ていたのか。
「……ウチにはこれしかないよ」
暗に高いお茶がいいのなら飲むなと含みながら机上に置くと、黒髪の男は律儀に「ありがとうございます」と頭を下げた。
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