第一章

11/18
前へ
/165ページ
次へ
 どうやら力関係は、例の男の方が上のようだ。  踵を返し、自身の分のグラスを片手に戻った結月がパソコン前の作業椅子に腰掛けると、沈黙を保っていた例の男が口を開いた。 「お前、いくつだ」 「え、唐突に? ……二十三だけど」 「……成人してたのか」 「童顔で悪かったね」  常に纏わりついていた視線の正体はコレか。  こういった類の指摘は慣れたもので、特に気を悪くするでもなく結月がグラスのお茶を含むと、黒髪の男が名刺を机上に置いた。 「ご挨拶が遅れ、申し訳ありません。私はウイラホールディングスで社長補佐を勤めております、磯崎逸見(いそさきいつみ)と申します。こちらが社長の、安良城仁志(あらしろひとし)でございます」 「ウソ、社長サマ直々に来ちゃったの? 大丈夫?」  こういった『裏仕事』を依頼するのは社長であっても、実際のやり取りには『窓口』を立てるのが基本だ。  口先だけの心配を連ねた結月に、逸見は苦笑を浮かべた。 「社長たってのご希望でしたので。勿論、こちらのご迷惑にはならないよう、出来る手は打っております」 「……社長補佐も大変だね」 「逸見」  仁志の声が会話を遮る。  結月は一瞬、逸見が咎められたのかと思ったが、どうやら本題に入れとの合図だったらしい。
/165ページ

最初のコメントを投稿しよう!

904人が本棚に入れています
本棚に追加