第一章

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「ホテル事業を中心とした経営を行っていますので、一般のお客様には、ホテル名でご認識されている方のほうが多かと思います。ですが、所有しているホテルにて共通で実施している会員サービスでは、今でも沢山のお客様にご入会頂いております」 「なるほど、おれの基準では十分『有名』の部類だね」  大金をポンと提示して裏稼業の人間を一ヶ月雇い入れようとするなんて、半端な『有名度』では出来ないだろう。  結月はそう、その場では納得し、それなりの金持ちなんだろうとは思っていたが、流石にここまで別次元だとは思っていなかった。  仁志は尻込みする結月にそれ以上何を言うでもなく静かに歩を進め、一番奥の扉の前に立つと、胸元から小ぶりのカードを取り出し差し込んだ。  ピーッと解錠を知らせる電子音が長い廊下に木霊し、扉を開くと、立ち竦む結月に視線で入室を促す。  社長サマ直々に解錠頂けるとは、なんとも贅沢なご身分だ。  調子のいい思考で無理やり自身を奮い立たせ、結月は顔を上げ部屋へと踏み込んだ。  第一印象は、とにかく広い。結月の部屋の二倍以上はあるだろうリビングは白を貴重としており、開放感のある窓から注がれる陽光も相まって、明るく清浄な空気感を漂わせる。
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