第二章

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 部屋に響いたノックに思考を切り、結月は持参したノートパソコンの蓋を閉じた。  そのまま眠れそうな居心地の良さと広さを兼ね備えたソファーから立ち上がり、足早に向かった扉を開くと、黒いスーツの男が柔いだ笑顔を携えながら軽く頭を下げた。 「お待たせしました、結月さん」 「そんなにかしこまらなくても」  彼は結月の部下ではない。云わば、お世話係を押し付けられた、不運な男である。  だが彼はそんな不満など一切見せずに「そうですか」と笑うだけで、纏う温かな空気が結月に安心感を与えた。  とはいえ、いつまでもここで和んでいては、彼の今後のスケジュールに狂いが出るだろう。 「呼び出してごめんね、逸見さん。よろしく」  靴を履き、後ろ手に扉を閉じた結月に、逸見は微笑みながら頷いた。 ***  外出の際は連絡をいれるようにと、仁志からアドレスと番号を受け取っていた。車を出す必要があるならば逸見に要請しろと、こちらもご丁寧に電話番号を渡された。  逸見は仁志が居住区としている最上階の、エレベーター横の一部屋を『家』としているらしい。  社長補佐というよりは、従者のようだと述べた結月に、逸見は穏やかな顔で「似たようなモノです」と首肯した。
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