第二章

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 逸見は幼少の頃から、仁志の『補佐』をしていたらしい。  仁志の家は元々商業施設向けの不動産業を中心とした商いをしており、現在その社長の椅子には仁志の父親が、補佐の位置には逸見の父親が腰を据えているのだという。  つまり逸見は幼少時から『補佐』としての教育が徹底されており、現在の立場はなるべくしてなったと言うべきなのだ。  仁志の目を盗んで不満はないのかとこっそり尋ねてみたが、逸見は「ありません。向いていたんでしょうね」と微笑むだけだった。  そんな逸見に都合の良い時間帯を伺い、こうして車を出してもらったのは、結月がただ社長気分に浸りたかった為ではない。  というより、真逆だ。  出来るだけ普通車に近いデザインの車を選んでもらったのも、目的に起因する理由である。  車が停められ降り立ったのは、あのマンションから一番近い位置にあったスーパー。  おそらく立地上、結月が足繁く通うスーパーよりも、単価が高いと推測される。 「予算は?」 「特に指定はされておりません。お好きに選んで頂いて構いませんよ」 「どんだけ適当なのあいつ……」  監視するつもりなら金の管理もキチンとしておけと、結月はいらぬ心配を脳裏に浮かんだ涼しい顔にぶつけた。
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