第二章

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「あっちはもっとイイもん食べてんだろうなー」  大都会を見下ろす大きな窓を背に、高級レザーチェアに座る仁志の姿が浮かぶ。椅子の色は勿論、黒。弁当はうな重だろうか、牛タンだろうか。『住む世界が違う』とは、まさにこの事だ。  自分のお手軽料理で一食を済ませてしまった逸見に小さな罪悪感を抱きながら、後片付けを済ませた結月も『仕事』にとりかかった。  仁志から最初の『仕事』として手渡されたのは、一枚の名刺と招待状だった。  ターゲットは最近勢いのある旅行会社の社長。なんでも、仁志の所有するホテルを対象としたプランを打ち出したいとご執心のようで、何度か断りをいれているにも関わらず、是非ともと食い下がっているのだと言う。 「で、ご要望はその素行調査って事?」  手を組むのならクリーンな相手。  でなければ、利害が一致する相手というのが常識だろう。 「……まぁ、そんな所だ」  仁志の回答は歯切れが悪い。 「決め打ちで欲しい情報があるなら言ってよ。じゃないと、取り逃すから。フワッとした依頼じゃ、フワッとした収穫しか出来ないよ?」  後で失敗だと難癖つけられても困ると唇を尖らせると、仁志は仕方なさそうに一度目をつむり、眉間に皺を寄せた。
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