第二章

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 腹を満たし、食器を片付けた結月はソファーへと場所を変え、ノートパソコンを開いて調べ物の続きにとりかかった。  光も音も届かない閉鎖的な空間に潜り込んだように、結月の思考が集中に沈み込む。  暫くしてそれが浮上したのは、届く筈のない声が真近から聞こえたからだった。 「熱心だな」 「っ!? びっ、くりしたぁ」  顔を跳ね上げると、黒のスラックスにカットソーという随分身軽な格好をした仁志が静かに見下ろしていた。  仕事から戻り、着替えたのだろう。昨日までとは打って変わりリラックスした装いに、ああやっぱここが『家』なんだと腑に落ちたと同時に、その『家』に囲われているのだと、結月の胸中が微かに疼いた。 (って、おれ男だし。こいつも効率重視だし)  社長の座につき守り続けるという事は、結月の想像よりも遥かに頭の回転を要するのだろう。  業務に支障をきたさない為にもと、こうしてならず者を家に上げる『捨て身』の精神はご立派だが、それでも些か不用心ではないかと危ぶんでしまう。 (……おれがナメられてるだけかなー)  結月の微妙な心中など知らず、当の本人は結月への警戒心など一切なしに、我が物顔で当然のように隣に腰掛けてくる。  まぁ実際、このソファーも仁志の所有物なのだが。
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