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「……ノックぐらいしてよ」
「ああ、スマン。そうか。忘れていた」
「……」
今思い出したというような顔をするので、本当に忘れていたのだろう。
逸見の所には、ノック無しで入っているに違いない。
(ま、いっか)
仮に入浴中であっても、他人に見られて恥じらうような可愛げは当の昔に捨てている。
ところで今何時なんだと掛け時計を見遣ると、今しがた二十三時を回った所だった。
「今帰ってきたの? 飲み会?」
「仕事だ。昨日の埋め合わせが少しな」
「昨日? 無理して帰ってきてたの? 別に、飯ぐらい勝手に食べたのに」
「初日から一人飯をさせるほど、甲斐性無しではない」
新婚かな?
思わず突っ込みそうになった言葉を飲み込んで、代わりに結月は吹き出した。
「なにそれ」
雇った情報屋を警戒するどころか気を使うなんて、彼の認識は明らかにズレている。だが、嫌いじゃない。
口元に手を添えクスクスと笑みを零しながら、結月は自身の中で、何かが緩んだのを感じた。
「今日の進捗、聞く?」
「ああ」
その為に来たのだろう。
仁志が頷いたのを確認して、結月はパソコンの表示を例のホームページへ切り替える。
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