第二章

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「……対象となっている施設の通常の料金設定は、妥当だと思うか?」 「同格の施設とも比べてみたけど、大方妥当だったと思うよ」 「……そうか」  驚愕とも懐疑的ともとれない薄茶の瞳が、結月へと向けられた。 「よく一日で、ここまで調べたな」 「そりゃあ、この仕事も長いしね」  人を真っ直ぐに見つめるのは、仁志の癖なのかもしれない。  悪戯っぽくニコリと笑んだ結月を数秒見遣ると、仁志は重々しく目を閉じて、ソファーへと背を預けた。  眉間に刻まれた皺は、疲労か憂いか。上に立つ者の重圧など、結月には毛頭想像つかない。 「社長の『好み』も捨てたもんじゃないね。コーヒーでも飲む? ドリップバッグしかないけど」 「……頼む」  結月はソファーから立ち上がり、シンクで湯沸かしポットへ水を入れ、スイッチを押した。  ここのポットは優秀だ。直ぐにゴウと鈍い音を立て、冷水を一気に熱湯へと変えていく。  おれは紅茶にしよ。  マグカップを二つ取り出し、ひとつの縁に開けたドリップバッグの紙製の羽部分をかけ、もうひとつにティーバッグを放り込む。  そうしている間に出来上がった熱湯を、コーヒーが溢れないように少しずつ注いでいく。
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