第二章

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「……今後、あんたが『ターゲット』になる可能性もあるからね」  名の通った会社であればある程、他社から狙われる可能性も高まる。必要に迫られ『対象』として定めた時に、結月の顔を覚えていられては『仕事』にならない。  何故か揺らぐ胸中を抑えこむように発した結月の肯定に、仁志は「……そうか」と呟いてコーヒーを流しこんだ。 「ところで、逸見に手料理を振る舞ったそうだが、俺にはないのか」 「は?」  話題を切り替えるのはいいが、脈絡がないにも程がある。主に後半。  真意を測りそこねて口を開けたまま凝視する結月に、仁志はただ待ち顔でじっと視線を向けてくる。 「ないのか」 (うぐっ)  おねだりなんて可愛いモノじゃない。自分の分があって当然という態度だ。  だというのに傲慢さは微塵も感じないのは、幼少時よりそういう生活に身を置いていた故の純粋さが先立っているからだろうか。 「……もう二十三時過ぎてるんだけど」 「小腹が空いた」 「太るよ」 「すぐ寝る訳じゃない、大丈夫だ」 「まだ仕事あんの! 早く戻りなよ!?」 「簡単な書類確認だ」  飯を出すまではテコでも動かないとでも言いたげな応答に、結月は深い溜息をついてソファーから立ち上がり、すっかり冷め切っているであろうビーフシチューを温めるべくコンロに向かう。
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