第二章

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 なんとも面倒な依頼主だ。だが金を貰っている以上、従わざるを得ない。 「……市販ルーのビーフシチューだよ」 「明日は煮物がいい」 「なんでおれにタカるの!? 美人な女将さんのいる小洒落た料亭にでも行って来なよ! あるでしょ!?」 「ああでも、帰りは遅くなるから、夕食は先に済ませといていい」 「人の話し聞こうか?」 「作れないのか?」  だから、聞いて。  それとも聞いた上でのスルーなのか。  なんで質問に質問が返されるんだと、追いつかない突っ込みに結月はがっくりと頭を垂れ、沸々としてきたシチューをお玉でかき混ぜながら口を尖らせた。 「……出来なかないけど」 「そうか」 「っ!」  違う、了承じゃない。だからそんな嬉しそうな顔をするな。  そう思うのに声に出来ないのは、仁志があまりに綺麗に瞳を緩めるからだ。 (おれって結構イケメンには耐性あるほうなんだけどなぁー)  『師匠』は身内の欲目ではなく、実に綺麗な人だった。生活全般の面倒を見るから側に居てくれと口説かれていたのは、結月が知るだけでも両の指では足りない。  そんな『師匠』と四六時中共にいた結月は、実に目が肥えている。  だというのに、こうして仁志の表情にぐっとくるのは、彼が『師匠』とはまた違ったタイプの色男だからだろうか。 (……これを機に耐性増やすか)  どうせなら最大限に活用させて貰えばいい。  結月は思考に終止符を打って、温まったシチューを小皿に取り分けた。
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