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違和感を覚えたのは、その時だった。
背に感じた気配に視線を巡らせると、華々しいパーティー会場とを隔てる扉の向こう側から、じっと見据える視線とかちあった。
周囲の男性よりも頭一つ高いスラリとした長身に、色素の薄いミルクキャラメル色の髪と、彩度を落とした瞳。日本人にしては彫りの深い端正な顔立ちに、青年の脳裏に「ハーフかな?」と疑問が掠めた。
年齢は二十代後半といった所だろうか。場慣れした重鎮さを醸しだしているが、引き締まった頬にはまだ若さの名残がある。
おそらく、このままいけば次の『社長』の座に収まるであろう息子殿に挨拶でもしそびれて、タイミングを探す為その挙動を追っている最中、たまたま目が合っただけだろう。
青年はそう思ったが、静かに向けられる双眼は取り巻いている女性達の浮いた視線を物ともせず、かといって息子殿にも移らず、ただ密やかに、青年だけを射抜き続けていた。
あまりにも特定した眼光に一瞬、昔の『客』かと青年の背筋に冷や汗が浮かんだが、脳内に収めた全てのリストを掘り起こしても、『客』は勿論、『獲物』の中にも知った顔はない。
だとすれば。
(ああ、もしかして)
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