第四章

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 鳴り響いた着信音に、結月の意識が浮上する。  思っていた以上に疲れていたのか、広々としたベッドが気持ち良かったのか、夢を見ることもなく熟睡していた。  無理やり動かした重い腕を彷徨わせ、無粋な音で急かすソレを見つけると、表示されていた時刻と番号に嘆息しながら通話を押した。 「……せっかく気持ちよく寝てたのに」 『そりゃ悪いコトをした』 「全然悪いって思ってないだろ」  電話口の向こう側で、ほくそ笑んだ気配がする。 「朝っぱらからなんの用だよ、――『土竜』」 『相変わらず可愛くねーなー、結月。少しは喜んだらどうだ? 折角の『家族』からの電話なんだからよ』  クスクスと笑う声に、結月は唇を尖らせた。  裏の世界に助力を求めてきた表の『客』の要望を訊き、望む相手へと繋ぐのが仲介屋の『土竜』である。  仁志を結月の所に寄越したのも彼だ。  結月と土竜の間には、血縁関係はない。だが『家族』だと互いに認識している。  彼はよく『師匠』の元に来ていた。それは仕事の時もあるし、そうでない時もあった。結月が『師匠』に拾われた、最初の頃からそうだった。  『師匠』にしか懐かない結月を「可愛くねーガキだな」と笑い、それでも媚びるでも常の横暴さを隠すでも無く、ただ自然とそこにいた。
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