第四章

3/6
899人が本棚に入れています
本棚に追加
/165ページ
 歳は知らない。見た感じでは、『師匠』と同じくらいに思えた。夜を写したような黒髪に黒目、『師匠』よりも背の高い土竜は、また系統の違った伊達男だった。  ある日ふと、二人に「恋人同士なのか」と尋ねた事があった。『師匠』は顔を顰めて「違います」と即答し、土竜は「どーだかな」と肩を竦めていた。  結月にはそれが不思議だった。二人の間には明らかに『関係』があったし、残念ながら結月では支えきれない『師匠』の心中を守っているのは、土竜の他なかったからだ。  結月は土竜の本名も知らない。だが師匠は知っていた。つまり、そういう事だと思った。  だから結月は言葉を変えた。「なら、二人は『家族』なの?」と。  すると土竜は手を打って「そりゃいいな。そうだ、『家族』だな」と笑い、『師匠』はまだ薄い皺を眉間に刻んだままチラリと土竜を見遣ったが、否定はしなかった。  上機嫌な土竜に呆れたように息をつき、それから結月の前で身をかがめた『師匠』は、細い指で優しく頭を撫でながら「ただし」と付け加えた。 「私達だけが『家族』なのではありません。結月、貴方を含めて『家族』です」  調子に乗った土竜が「どっちかっつーと、お前は俺似だな」と満足気に腕を組み、『師匠』に強烈な一発を食らっていたのも懐かしい。
/165ページ

最初のコメントを投稿しよう!