第一章

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(ちょっと寝よっかな……アイツ、ねちっこかったし)  品行方正な息子殿は余程『溜まって』いたらしく、部屋に着くなり「慣れない酒に体調を崩した」と手早く何処かへ連絡をいれ、結月が浴室から戻るなりその身体を飽く無く抱いた。男は初めてだったろうに、余程具合が良かったらしい。  最中の睦言に紛れ込ませ引き出した社長殿の情報は、当初の予定を遥かに超えお釣りがくる程だ。熱と欲に霞がかった脳では、正常な判断も困難になる。  結月が部屋を出れたのは、男が眠りについた午前三時過ぎだった。そこから帰路につき、資料を纏め、仮眠をとって再チェックからの、仕事終わりだ。今寝ないで、いつ寝る。  朦朧としてきた意識を気持ちよく手放そうとした刹那、不意に部屋の呼び鈴が響いた。  しつこい新聞屋の勧誘だろうか。居留守を決め込もうと布団に顔を埋めると、数秒後に、またチャイムが鳴った。  控えめな鳴らし方に新聞屋じゃないなと脳内でバツをつけ、結月は渋々身体を起こした。 「ったく、折角いい感じだったのに」  企業勤めのサラリーマンならば始業の時刻を過ぎた頃合いだろうが、結月には関係ない。欠伸をかみながら邪魔された不満に大股で扉に向かい、覗き穴から不躾な来訪者を確認した。
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