898人が本棚に入れています
本棚に追加
/165ページ
必死な弁解が面白いのか、クツクツと笑う低音が耳に届く。
見えなくとも愉しげにニヤつく表情が思い起こされ、結月は湧き上がった羞恥に、堪らず枕に顔を埋めた。
土竜は何処まで、お見通しなのだろう。
「……ねぇ、土竜」
『なんだ?』
「……おれのソレは、『進歩』なの? 仕事をする上で余計な感情は邪魔だって、『師匠』がいつも、言ってたじゃん」
胸中を蝕む『感情』は、仕事中に自我を生む。この世界で生きていくには不要な興味を切り捨てるか、それを抑えこめる程に強くならなければいけないと、『師匠』は結月に教えた。
土竜は暫くの沈黙の後に、『そうだなぁ』と呟いた。
『……アイツが知ったなら、「私の教えを忘れたのですか」って言いながら、仁王立ちで腕を組むだろうな』
「……だよね」
『けどな、結月。その後きっと「お茶にしましょう。手を洗ってらっしゃい」ってお前を追い払ってから、こっそりと顔を緩めるんだよ。『師匠』じゃなくて、『親』の顔でな。俺の知るアイツは、そーゆーヤツだ』
「……土竜の知る『師匠』なら、誰よりも間違いないじゃん」
『どうだかな。俺の知らないアイツも、沢山あると思うぞ』
最初のコメントを投稿しよう!