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途端、結月は息を止めた。
ドアの向こうには、黒いスーツを着込んだ黒髪短髪の男が一人。その後ろに、灰色のスーツを纏った男がもう一人控えているようだが、こちらは顔までは確認できない。
警察だろうか。ならば、通す前にパソコンのデータを消去するウイルスを突っ込まないと。
知り合いから買い取ったUSBの在りかを想起しながら動向を注意深く伺っていると、手前の男がトランプ程の大きさのカードを覗き穴にそっと掲げた。
描かれていたのは、見覚えのある『土竜』の画。
(っ、『客』か)
『土竜』は仲介屋のコードネームを示している。そしてこうして、家に人をよこす時は『正式な』手順を踏んだ証として、土竜のカードを客に持たせるのだ。
「どうぞ」
扉を開き、入室を促すと、結月の姿をみとめた黒い男がわかりやすく瞠目した。電子だけのやり取りが主流となっている近年、こうして高い金を仲介屋に支払ってまで家を訪ねてくる『客』は久しい。
これまで何度も見に受けた覚えのある反応を懐かしく思いながら扉を完全に開け放つと、黒髪の男が後方を見遣った。結月はつられるように顔を上げ、視界に入った顔に無意識に息を詰めた。
ミルクキャラメル色の髪、観察するようにじっと見据える双眼は、昨晩と同じく感情が見えない。
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