Metal bound

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この先もコーナーは続く、直進で自空車に食い付かれようが大した影響ではなかった。 「もう勝負は着いたようなもんだな、どうする約束通り俺達と来るか 強制みたいに言ったが無理強いするつもりはない、来たけりゃ来い、嫌なら来なくていい」 僕の気持ちはまだ揺らいでいる。答えを出そうにもあまりに大きい選択だ。 「俺達は明日までここにいる。悩めるのはそれまでだ。」 タイロスはレースを最後まで見ずに去っていった。 結局勝負は僕の車が大差をつけての勝利。 僕は手に入れた車を持って一人整備工場へ戻った。 華やかしい栄光とは裏腹に僕の心は沈んでいく、大会後すれ違ったトグロにも何も言われず、優勝商品等はドライバーのエルピスの人が持っていったけれど、確かに僕は大事な物を手に入れたはず。 それなのにこの満たされない思いはなんなのか。 僕は今一度自動車を見た、じいちゃんは何を思いこの車を作ったのか。じいちゃんの気持ちがまだ分からない。 僕は倉庫に眠っているじいちゃんの備品を漁ってじいちゃんが昔描いていた車等の設計図を取り出す。一部無くなっている物もあるが設計図を作成順に並べると、それが徐々に進化しているのが理解出来た。 最後の設計図はあの車と非常に良く似ている、きっと次の設計図だけ持ち去ってそれを元に造り上げたのだろう。 車の名は「hope」 まさにエルピスに打って付けの名だ。 それから写真が一枚、僕がまだ幼く、じいちゃんに抱かれながら写っている。 写真の日付は最初の設計図が作成された日とほぼ同じ、この時からじいちゃんはこの町から飛び出したいという夢を抱いていたのだろうか。もしそうだとしたらどれ程長い間その気持ちを押し殺していたのだろう。僕には到底理解出来ない。 タイロスが語っていた。人生を燻って生きるより価値がある、と今ならその言葉を少しは理解出来る。今日久しく覚えた興奮は僕に確かに息吹を与えた。 今の僕なら彼らのような馬鹿も出来そうだ。トグロの鼻だって明かせたんだ、もう燻ってなんかいられない。 それにじいちゃんの気持ちを知るには同じ道を歩むしかないのだから、僕は彼らに会いに行こう。 大空に舞う威厳ある巨大戦艦。 『希望』という名が付けられたこの船に僕は足を踏み入れる。 それは僕が踏み出した大きく確かな希望の一歩であった。 「ようこそ、エルピス号へ」 END
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