Metal bound

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「酷いじゃないか、ええ?」 僕は身震いした。そこに立っていたのはさっき店で出会ったあの男だ。それも何か怒らせてしまっているようだが、実に覚えがない。 なにせ男と出会ったのはつい数十分前が最初でその時間はわずか数秒間、何を怒らせるというのか。 とにかく謝らなければ、この男なら平気で人を殺しかねない。 「あの、すいません  僕なにか失礼なことを」 「ああ、まったくだ。 聞いていたんだろ? 俺が整備士を探していたことを  ならなぜ言わなかった、お前が整備士だと」 僕は緊張が解(ホグ)れていくのを感じた。よかった、ただの勘違いで、説明すれば分かって貰えるだろう。 「腕の立つ整備士を探していらっしゃるんでしょう、それなら僕は違います。 僕は整備士ですけど、腕は立ちません。」 これが僕の言い分だ。 確かにあの時、僕は本能的に関わりたくないと思った。けれど、名乗りでなかったのは腕の立つ整備士のカテゴリーに僕は分類されないからだ。整備士だけなら、成る程、僕も含まれるかもしれない。 男はズカズカと中に入って停めてある自空車のボンネットをなぞり、吊るしてあるエンジンに目をくれる。 「エンジンに穴が開いてる」 「はい、その車は預かっているものです。 これから修理するんです」 「このエンジンをか? 取り換えるんじゃなくて?」 「この辺りは裕福な方が少ないので、コストは出来る限り抑えないといけないんです。100パーセントで無くとも以前のように走る状態にするのが、僕の仕事です。 完璧な状態をお望みならトグロの工場へ行かれた方がいいです。あそこならエンジン交換だってやってます」 僕のところに来るのは本当にお金に余裕がない方々ばかりで、僕も最低限の処置しかしてあげられない。本来ならエンジン交換だってしてあげたいし、ここまで破損していればそっちの方がメジャーではある。 「修理を依頼したい」 「えっ!?」 「とても稀少な車だ。腕の良し悪しだけじゃない、愛情を持ってやって貰いたい 君の姿勢はよく理解した、金に糸目はつけないから自由にやってくれないか、トマス」 「どこで僕の名前を?」 トグロの工場とは違って、ここの工場に僕の名前は刻まれていない。元々はじいちゃんの工場で看板に刻まれているのはじいちゃんの名だ。
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