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じいちゃんもそう感じたんだろうか。タイロスの言う夢を求め欲したんだろうか。だから旅に出たのだろうか。
「ところで車の修理なんだが請け負って貰えるのかな」
三日後、先の自空車の修理は終わりタイロスが修理して欲しいと言う車が運ばれてきた。被せてあるシートを取り払い初見で感じたことは美しいということだ。それから心地よさ。
本当はもっと突っ込む所があったのだろうが、そこに意識がいかないくらいに魅了された。
「見たことがない車だ。それに今どき空も飛べない“自動車”なんて」
自空車がこれ程流行っているのには理由がある、地面と接しない為、無駄な抵抗がなくスピードが乗りやすく悪路だろうが快適に走れること、砂漠地帯のこの辺りじゃ特に浮いているというのは大きなアドバンテージだ。
欠点を挙げるならば車を浮かせるための装置が大きく重いこと、そしてエネルギー面で長時間は走れないことだ。
「なんでもかんでも浮かせりゃ良いってもんじゃない、こいつは速いぜ、そこらの自空車何かよりよっぽどな、自空車は重い装置が外せないし地面の抵抗がないってそりゃ寧ろ曲がりにくいってもんだ」
タイロスは自動車のボンネットを優しく愛でた。
自動車はすでに過去の産物と化しつつある、蒸気機関車がその役目を終えたように、けれど一部のマニアでは今や自空車よりも高値で取り引きされる自動車を愛用するものも未だにいる。
タイロスもその一人なのだろうか。
「トマス、こいつの修理が終わったら、俺と一緒に来ないか?」
「えっどこに?」
突然の誘いに理解が出来なかった、彼が何者であるかを今一度思い返し、その誘いの意味を理解する。
「俺達の一員になれ、テストは不要、君は首を縦に振るだけでいい」
「いや、無理ですよ 僕の事を買い被りすぎです。
僕はただの整備士です。
じいちゃんの代わりを探しているんでしょうけれど、肉親だからって僕に代わりは務まりません。」
「君こそ自身の能力を過小評価している。穴の空いたエンジンを綺麗に塞げるような奴がどれほどいる?
しかも自空車のような繊細なエンジンを
確かにおじいさんの代わりを探しているということは否定しない。
だが誰でも良いわけじゃない」
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