Metal bound

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ムリもない、じいちゃんがいなくなってからはずっとこの大会を避けてきたのだから 今更、僕が参加するなど思いもしないだろう。 けれど車を運びいれるとトグロの表情は一転する。ただ馬鹿にするだけではない、哀れみさえも含んでいる。 「ポンコツ車でレースに参加か?恥をかく前に辞退を進めるぜ」 ゲラゲラと下品な笑いを高らかに発しながら彼は自分の持ち場へと戻っていく。 トグロはここ最近この大会の優勝の常連だ。それもそうだろう、昔と比べれば他の参加者の力量は落ちている。そうしてトグロがどんどん幅を利かせ、他の整備士等がどんどん落ち目に追いやられていく。 「気にするな、試合が終わったら笑っていられるのは優勝者だけだ」 タイロスだけは変わらず堂々した出で立ちで準備の手伝いをする。 「どうしてこんな大会に? 賞金なんて大した額が貰える訳じゃないでしょ、これもエルピスの仕事なの?」 「いいや、こいつはただの趣味だよ それより車の方はどうだ」 「普通だよ、特別なことはなにもしてない」 試運転は他のエルピスの人がしていたから性能の方は正直分からない。確かに修理する際に何か感じるところはあったが、僕の力量では理解し切れなかった。 専ら自空車ばかり触ってきたから今更自動車に慣れないというのもある。 「それでいい、言ったろ、この車は特別だ。 普通に修理しても普通とは違う」 準備を終え、僕達は観覧席へと移る。ここからスタート位置に着くそれぞれの車を見遣ると、どれもこれもが自空車で一台混じる自動車は形も他と異なることもあり別の意味で浮いている。 「さぁ始まるな、俺にとっちゃ楽しい一時だが、お前にとっちゃ運命の一時だな」 運命だなんて大袈裟さ、結果は見えてる。タイロスがどれだけあの車を溺愛しようがこの砂漠地帯において自動車では自空車に勝てない。 カウントが始まり、運命の時は来た。 一斉に車は飛び出し、頭一つ抜けたのは僕の車だった。 「速い」 「当たり前だ。自空車は実態のない空を蹴る、自動車は実態のある地面を蹴る、加速においちゃ自動車の方が圧倒的さ」 しかし、自空車も負けてはいない。徐々に加速し僕の車に追い付いてきた。最も先にやって来たのはやはりトグロの車だ。
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