Metal bound

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最初は直進の長いコースでスピードが乗ると自空車は早い、折角良いスタートダッシュを切ったものの徐々に後続車に抜かれ始め観客からはクスクスと笑いが聞こえてきた。 惨めな思いだ。やはり今時自動車なんかでは敵いっこないのさ、こんなことならやはり出ない方がよかった。僕が顔を背けた時、タイロスが言った。 「まだ始まったばかりだぞ、何を諦めモードに入ってる」 タイロスはまるで動じていなかった。これほど周囲から馬鹿にされているにも関わらず、それを楽しんでいるようだ。 「ストレートなら確かに自空車は速い、けど車の速いっていうのはそれだけじゃないはずだ。 お前は整備士なのにその辺りはあまり詳しくないようだな」 知っているさ、車は直進だけじゃなく、コーナーを曲がるときこそ差が出ると、けれど直進でここまで差を見せ付けられては巻き返すのは困難だ。 車は最初のコーナーに差し掛かった。自空車は早めに車体を切るが僕の車はまだ直進する。 自空車は浮いているからこそ車体が横に向こうが暫(シバラ)くは直進し続けるのだ。しかしその隙に僕の車は差を詰めていく。 「自空車は早めに曲がる動作をしないと曲がりきれない、スピードが乗っていれば尚更な だが自動車はもう少し直前でも地面との摩擦抵抗で減速し曲がれる。特にこの砂漠はいいクッション材になるだろう」 タイロスの言うように自空車よりもあとにハンドルを切ったにも関わらず、自動車は小回りを利かせ周囲との差を一瞬で縮めた。 その異様な光景に周囲からは吃驚(キッキョウ)の声が上がる。 恐らくこれが普通なんだと思う。自動車とはこういう動きをするのだろうけれど、自空車が当たり前となった現代、自動車の動きは想像を超えている。 続くコーナーで戦局は決定的なものとなった。 先頭のトグロとの差は僅か、後続車は唯一巻き上げるその車の土煙に悪戦苦闘している。 「あれは反則なんじゃ」 「タイヤがついてんだ。土が舞い上がんのは仕方ないだろ」 これもタイロスの狙いか、自動車なんてそうそう走っているものじゃないから土煙が上がるなんて誰も想定しない。 そしてコーナーを曲がった時、トグロの車を追い抜き僕の車は先頭に躍り出た。 遠くに鎮座しているトグロが苦悩の表情を晒しているのを垣間見る。
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