きっかけは片想い。

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 恋愛って楽しい?  そう聞かれたら私は首を横に振るだろう。その理由にはもちろん経験の少なさもある、しかし片想いの辛さを人一倍知っているからだ。  辛い片想いを乗り越え、その相手と相思相愛になる。誰もが憧れるような、そんなロマンチックなストーリー。  でも私は中学生活の三年間と高校生活の二ヶ月間で気付いてしまった、美談に出来るようなハッピーエンドは映画やアニメの世界だけなのだと。 「おい、茜。何ぼーっとしてんだよ、早い所終わらせて帰ろうぜ」  窓の外を見詰め現実から逃避する私を、甲斐甲斐しく現実へ呼び戻す声。少し低めで落ち着きのある、私の好きな声だ。 「ごめん夏紀、こっちはすぐ終わらせるから」  軽く下げる頭を追うように、後頭部で黒髪の束が揺れる。  そもそも私が恋愛に対し悲観的になったのも、原因はコイツだ。  神田夏紀。幼稚園時代からの幼馴染みで、何かと一緒に居る機会も多い。怒る事が少なく笑顔の可愛い、気取る事も無く素直さが眩しい人懐っこい奴。  夏紀と長い時間一緒に遊ぶ内に私は恋をしたのだが、その無自覚な恋に気付いたのは中学校の入学した当初だったかな。  一緒に帰ろう、お前と帰らないと落ち着かないんだ。  この言葉で、当時の私は恋を自覚する。そして、どうすれば良いかわからず走って逃げた。  その後、夏紀から謝られたのも良い思い出だ。 「こっちはもう終わったよ、夏紀の方はまだ?」 「ばーか、とっくに終わってんだよ。お前待ってただけ、ほら早く帰ろうぜ」  夏紀は持ってた黒板消しをチョーク置き場のそばに置き、鞄を拾い上げながら廊下へ向かう。  慌ててほうきを掃除用具入れへ直して夏紀の後を追い廊下へ出た。 「……そういや先輩に部活見学に誘われてるんだった、顔出しとかなきゃいけないよなあ」  廊下の窓から体育館を見ながら呟いた言葉に、つい夏紀の方を見てしまう。 「……え、何。何でそんな顔してんの」  まずい、私は今どんな顔をしているのだろうか。隠そう、下を向いて隠すしか無い。 「ううん、私は良いから行って来なよ。待っててくれてありがと、また明日ね」 「……そうか? 悪い、また明日な」  駆け足で去っていく夏紀の後ろ姿に手を振り見送る、階段を降り見えなくなった所で溜め息と共に肩を下ろした。
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