嫌いになれない幼馴染

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 横たわる三春は、瑞樹の声で目を覚ましたようだった。 「いいのよ、瑞樹ちゃん。それ、お粥?」 「は、はい。絶食後の初めての食事なので」 「ふふ、ありがとう。イケメンの瑞樹ちゃんに持ってきてもらったお粥なら、きっとおいしくいただけるわ」  三日前入院したばかりの患者にも、ちゃん付けで瑞樹は呼ばれている。おそらく可愛らしい風貌のため、親しみやすいのだろう。こういう時、瑞樹は圧迫感のない自分の容姿は役に立つと思う。特に年配の方には効果覿面だ。  昼食配膳後は、瑞樹自らも昼休憩を食堂で取る。通勤途中で買ってきたおにぎりとメロンパンが昼ご飯だ。徹大と暮らしていた時は、時々弁当を作ってもらっていた。徹大は綺麗好きな上に、料理も上手なのだ。 ――あんなイケメンで家事も得意なんて、ずるいよね。  食生活に無頓着な瑞樹を、徹大は心配してくれた。 【医者の不養生って言うけど、看護師もそうなのかよ】  徹大が作る弁当は美味しかった。栄養のバランスも彩りも良くて、周りの看護師には彼女が作ったのかといつも揶揄われた。 ――でも、もう食べられないんだなあ。  休憩中とは言え勤務時間なのに、目に涙が滲む。昼食ですら徹大に結び付く。忘れたいのに忘れられない。嫌いになりたいのに嫌いになれない。
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