1638人が本棚に入れています
本棚に追加
/260ページ
ナースステーションの窓から外を眺めると、午後五時過ぎだというのに、つい数日前の同じ時刻より、空が明るいような気がする。
(日が長くなったなあ)
今朝、通勤時に見かけた桜の木。芽吹く蕾はまだ固く沈黙していた。だがほころびるのは、あっという間だろう。
少しずつ春めいてきた、夕刻。時計の針が、午後五時を過ぎた。日勤の冬野瑞樹は、今日の仕事はここで終わりだ。
「お疲れさまでした。お先に失礼します」
「はーい。瑞樹くん、また明日ね」
夜勤の先輩看護師らに元気よく頭を下げて、瑞樹はナースステーションを後にした。
男性用更衣室でナース服から私服に着替える。
看護師になって丸一年。
ようやくナース服も板についてきたような気がする。
瑞樹は制服を着ているからこそ成人に見られるが、ダウンジャケットにジーンズという変哲のない通勤服は、高校生は言い過ぎでも、大学生に間違われることは多い。
だがそんな容姿が患者たちの癒やしになっていると思えば、瑞樹もこの風貌は嫌いではなかった。
小柄で細身で雰囲気の優しげ瑞樹は、入院患者の密かなアイドルだ。特に高齢者限定だが。
最初のコメントを投稿しよう!