嫌いになれない幼馴染

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《第1話 折れた心》  新米看護師の冬野瑞樹(ふゆのみずき)は、慣れない夜勤に疲れ切っていた。  時刻は午前十時。病院を出ると、外はしとしと雨。天気予報を確認していなかった瑞樹は、この天気にうんざりした。瑞樹の住むマンションまで自転車で十五分程。草臥れた体に、冬の冷たい雨を浴びるのは正直きつい。しかし一刻も早く帰って眠りたい。覚悟を決めて瑞樹はペダルを踏んだ。  そんな思いまでして帰った家。  玄関を開けると、女物の靴がある。それも適当に脱ぎ散らかしたままだ。  瑞樹は無表情のまま、静かに靴を脱ぎ、足を奥に進める。  2LDKの賃貸マンション。廊下を挟んで向かい合わせに六畳の洋室が二つ。奥に向かって左が瑞樹の部屋。その向かいが一才年上の幼馴染兼同居人、今和泉徹大(いまいずみてつはる)の部屋だ。  瑞樹は徹大の部屋のドアをノックもせず開けた。正面にあるベッドに徹大と女が眠っている。全裸かどうかは布団に隠れて分からない。  瑞樹は、己の中の何かが耐えきずに折れるのを感じた。 「ふざけんなよ……」  小さく呟くが、寝こけている二人には、瑞樹の声は届かない。 「てっちゃん! ふざけんなっ」  大声を上げ、二人にかかっている布団を勢いよく剥ぐ。
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