1647人が本棚に入れています
本棚に追加
一凛は大学へ。
徹大は美容師を目指して、美容専門学校へ。
それぞれ地元を離れ、県外の街へ一緒に行くと言うのだ。
てっちゃんがここからいなくなる。
てっちゃんが結婚する。
「瑞樹っ?」
瑞樹はもう堪えられなかった。
「ど、どうしたんだよっ」
でも、それでも、言えない。
「なんで、泣くんだ?」
さっきから徹大の顔がよく見えないと思っていたら、瑞樹は泣いていたのだ。
「て、てっちゃん」
――好き。行かないで。
「瑞樹……」
徹大が無言で泣く瑞樹の頬に手を添える。後から後から流れる涙は、いくら指で拭っても止まらない。
「ごめ……」
すると突然、瑞樹の唇に柔らかい何かが触れた。
それは徹大の唇だった。
――てっちゃんが俺にキスしてるっ?
あり得ない出来事に、瑞樹の涙はぴたりと止んだ。徹大の唇はすぐには離れない。瑞樹のそれをやわやわと食んだり、舌先で歯列を開けようとさえした。入り込もうとした舌に驚いた瑞樹が、勢いよく顔を離した。
「な、なにをっ……」
「やっと泣き止んだ」
徹大が意地悪そうに微笑む。
「泣き止まないから、ショック療法?」
それが瑞樹のファーストキスだった。
最初のコメントを投稿しよう!