嫌いになれない幼馴染

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 あまりにも衝撃的な出来事だった。瑞樹はせっかく徹大にもらったキスをあまりよく覚えていない。泣きじゃくる瑞樹をキスというショックで泣きやませようとした、徹大の苦肉の策。それでも瑞樹は嬉しかった。だからといって、徹大と瑞樹の関係は何も変わらない。今まで通りの幼馴染のまま。  キスの翌日、学校の廊下で徹大と偶然出会った時、思わず瑞樹は顔を赤くした。よく覚えていないキスだがそれでも恥ずかしかったのだ。しかし、徹大は「瑞樹、風邪か?」と頭をポンポンと叩いて、女友達と通りすぎていった。  瑞樹は廊下に立ちすくむ。瑞樹には好きな人からのキスだが、徹大には唇の接触でしかない。分かってはいたが、切なかった。             「瑞樹ちゃん、久しぶりねぇ」 「杉川さん……今日からまたお世話になります」 「何言ってんの。それはこっちの台詞よ。こちらこそよろしくね」  杉川は持病があり入退院を繰り返している高齢の女性だ。瑞樹がこの病棟に勤めだしてから、もう数回目の入院で、瑞樹とも顔見知りだ。
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