嫌いになれない幼馴染

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《第8話 漏れていた思い》  瑞樹は固まった。 ――出てきていいぞ、徹大? 「いつまで隠れてんだ、早く出てこい」  潤が呆れたように声をかける先は、ソファの後ろにあるクローゼット。今まで無音だったそこから、急に人の気配が漂う。中からガタガタと音がして、内側から扉がゆっくりと開く。 「てっちゃん……」  そこには一ヶ月以上ぶりに会えた徹大がいた。 「瑞樹」  久しぶりの徹大の声。ずっと顔を見たかった、声を聞きたかった。  だがその一方、瑞樹は無性に腹が立った。 「何しに来たんだよ……てっちゃん」 「何って、おまえを、迎えに」 「俺、あそこには帰らないよ」 「瑞樹!」 「家賃が払えないなら、こないだ居た女の人に頼んで住んでもらえば?」  瑞樹はここまで徹大に歯向かったことはなかった。 「瑞樹、こいつに腹が立つのはよく分かる。だが、のぞき魔みたいな真似までしてクローゼットに隠れて、瑞樹に言いたい事があるんだ。聞いてやれないか?」  先程、瑞樹に愛を囁いた人とは思えない程、落ち着いた口調で潤が瑞樹を諭す。
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