1651人が本棚に入れています
本棚に追加
徹大は当てが外れたような表情をする。
「好きだって言えば、俺がのこのこ喜んで帰ると思ったんだ。俺なんか、どうせそんな程度だよ。馬鹿にするなっ」
「瑞樹」
「てっちゃん、好きだよ。だから許せないんだ。あの家に、女連れ込んで。ヤッたとかヤッてないとか、信じられないし、もうどうでもいい。女連れ込んだ家になんか、帰るもんかっ。俺は、そこまでお人好しじゃないっ」
せっかく徹大が瑞樹を好きだって言ってくれたのに。
十年来の思いが叶って、ようやく両思いになったというのに。
瑞樹は自らそれを無くそうとしている。
「てっちゃん、本当に、俺を好きなの?」
「あ、ああ」
「だったら、誠意を見せて」
「誠意?」
「あの家はいやだ。引っ越して。そしたら、一緒に住んでもいい。それに、スマホ。それ、壊して。女の連絡先、全部消して。女と手を切ってくれないんたら、俺、帰らない」
瑞樹は徹大に嫌われるのを覚悟で、無理難題を吹き掛ける。
「瑞樹」
「それが出来ないなら、さよならだよっ」
その場が静寂に包まれる。
しばらく佇む三人だが、徹大がその静けさを破る。
「分かった」
最初のコメントを投稿しよう!