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「瑞樹ちゃん、どうするぅ?」
「えっ、何?」
「忘れてるし。合コンだよ」
「あー、それか」
徹大の告白から数日。瑞樹の日常は何事もなく過ぎていく。何も変わらない。
今は同期の庄崎と食堂でランチ中。
「瑞樹ちゃん来るかもってうちの友達に話したら、もう、喜んじゃって」
瑞樹は女性から好意を向けられたことがないので、どう反応していいか分からない。
「来週いいかな?」
「う、うん」
先週までは徹大を忘れるのに、女の子と恋でもすればいいと思っていた。しかしテンションが下がってしまったのだろうか。今は正直どうでもよくなっていた。しかし庄崎の喜びようを見ると、行かないなんて既に言い出し難い。
徹大の告白を拒絶した瑞樹だが、徹大を好きな気持ちは揺らがないのだ。
――俺は病気だ。てっちゃんっていう菌にやられて、一生治らない、不治の病。
「お疲れ様でした」
午後五時過ぎ、瑞樹は定時で仕事を上がる。ナースステーションにいる看護師に挨拶をして、階段で一階に降りる。関係者用出口に向かう廊下で、若い女性二名とすれ違う。瑞樹の知らない他科の看護師だ。
「ロータリーにいた男の人、見た?」
「見たよ。すっごいイケメンでしょ」
「バイク似合ってたぁ。看護師の彼女待ってんのかな。あんなカッコいい彼氏いるなんて、羨ましすぎるぅ」
――イケメン、バイク。
すれ違い様に聞こえた単語に瑞樹は反応する。姦しい声が遠ざかる中、その単語に当てはまる人物に思い至る。
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