鈍感な幼馴染

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「ちょっと! こんな短くしてなんて、言ってないわよ」  徹大は美容師だ。  手先が器用な徹大は、美容専門学校を優秀な成績で卒業した。  毎年成績優秀者は有名サロンに就職するのだが、徹大も同様だ。  勉強はあまり好きではない徹大だが、美容師は天職なのか、そのための努力は惜しまない。  最初の二年間は懸命にスタッフとして働いた。  シャンプーの技術は店舗で一番になり、シャンプーだけでも徹大を指名する常連客がいるほどだ。  街角に立ち、徹大がカットモデルを募れば、すぐにわんさかと集まる。  そんな彼女らを実験台に日々、カット、カラー、パーマの練習に日々勤しんだ。  その甲斐もあり、今年の春、スタイリストデビューした。  少しずつではあるが固定客を持ち始めている。  しかし、せっかく徹大に付いてくれている常連客の髪をオーダー以上に切りすぎてしまった。 「も、申し訳ありませんっ」  徹大は前に立つ店長と共に頭を下げる。 「どうしてくれるのよっ、髪はすぐには伸びないのよっ」  客は相当怒っており、取り付く島もない。
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