鈍感な幼馴染

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 瑞樹がいない家に帰る日々が続いた。  夜勤の日以外は、午後七時前には瑞樹は帰宅する。  スーパー以外寄り道もせず、まっすぐ家に戻ってくる。  いつもなら瑞樹の出迎えの声があるはずなのに、あの日以来出迎えてくれるのは静寂のみだ。  瑞樹は家を出てから、徹大の不在を狙って数回帰宅しているようだった。  家を出た翌日、早速荷物を取りにきたようで、家の中を整理整頓してくれていて驚いた。  そして、テーブルに置かれた一万円札。  それに添えられたメモには【大事な雑誌を破いてごめんなさい】とだけ書かれていた。  悪いのは女を連れ込んだ徹大なのに、律儀に謝る瑞樹は、何ともお人好しだ。  鞄をリビングの床に放り投げ、リビングのソファーに腰を下ろす。 「はあ、疲れた」  家に帰ってきたというのに、あまりの静けさに余計に疲れが増長される。  こんなことなら誰か適当な女の家に転がり込んだ方が良かったかもしれない。  そういう考えが原因で瑞樹が出ていったというのに、また同じことを徹大は繰り返そうとしていた。  LINEにはたくさんのメッセージが入っている。  明日、徹大は休みだ。  それを知っているセフレからのお誘いメッセージだ。  それらをざっと一瞥するが、特に返信することなく徹大はスマホをテーブルに置く。 「やっぱ、やめとこ」  決して瑞樹に操なんか立てないが、何だか気分が乗らない。  きっとこんな日は家でおとなしくしておくのが賢明だ。
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