鈍感な幼馴染

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 高校卒業後は、美容専門学校に通うため、地元を離れるつもりだった。  そして一凛も偶然同じ街にある大学を受験すると知ると、徹大は一凛にプロポーズした。  それ程好きだったのだ。 「て、てっちゃん、彼女出来たって、本当?」  この時、瑞樹と会話を交わすのは久しぶりだった。  一凛を彼女だと認め、尚且つ、一緒に地元を離れて結婚も考えていると瑞樹に告げた。  この時の瑞樹は忘れられない。  絶望の表情とはこういうものかとまざまざと見せつけられた。  瑞樹の大きな目からぼとぼとと落ちる涙に、徹大は驚いた。 「好き。行かないで」  瑞樹がとうとう告白した。  しかしこれはおそらく心から溢れでた声だ。  本人は実際に口から放たれているとは思いもよらないだろう。  いくら慰めても泣き止まない瑞樹があまりにもかわいそうで、可愛くて、徹大は思わずキスをしてしまう。  もう涙と鼻水で顔はぐしゃぐしゃで、キスした唇はしょっぱかった。  しかし汚いなんて微塵も思わない。  その効果は覿面で、瑞樹の壊れた蛇口のように溢れていた涙は、ぴたりと止まった。  きっと瑞樹のファーストキスだったと思う。  それを徹大が貰えたことに密かに優越感を感じていた。    徹大は一凛に惚れていたが、心の違う部分で、瑞樹を憎からず思っていた。
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