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夏ーー!
海!
そして水着の美女とくれば……。
「ナンパするしかあるまい!
今年こそは彼女作ってウハウハするぜー!」
俺は常夏の砂浜で叫んだ。
しかし……。
「おい、縁無氏【えんなし】……恥ずかしいから、海水浴場に来て叫ぶ癖は直せよ。
第一、その台詞何回目だ?
俺が知る限り、もう七回ぐらいは聞いてるぞ、それ?」
「黙らっしゃいリア充のイケメンこと加山光一【かやま・こういち】!
彼女連れで海に来てるリア充の貴様には分かるまい!!
今年で27歳にして彼女居ない歴の俺の苦しみなど!」
「いや、まぁ…気持ちは分からなくもないけど、その状況は間違いなく、お前にも原因あるだろよ?」
「そうそう光ちゃんの言う通りよ、チェリー駄目男【だめお】くん?」
「イケメン加山の彼女こと水野美咲【みずの・みさき】よ黙れ!
俺の名はダメ男ではない!
縁無氏忠生【えんなし・ただお】だ!」
「あれ? そうだっけ??
まぁ、どっちでもいいじゃない。
どーせ大差無いんだし?」
「アホか!? 大差有りすぎた!!
忠生だと忠義に生きるだが、駄目男は駄目な男だろうが!?」
俺は怒りの余り身を震わせる。
だが、水野は全く俺の話など聞いていないらしく、既に水着姿で準備運動を始めていた。
(くっ……! 俺の話など聞くに値しないとでも言うつもりか??)
俺は激しい悲しみと寂しさを感じながら、水野の背中を見詰める。
そして、その直後、不意にイケメン加山が俺の右肩に右手を添える。
「縁無氏……大丈夫だ!
お前にだって、何時か必ず春がくるよ……。」
「やかましいイケメン加山が!!
今は春じゃねー!
夏だっつーんだ、どっちきしょー!!!」
俺は、いたたまれなくなり思わず、その場から走り出した。
まるで青春映画の1シーンの様に、海に向けて走り出す俺ーー。
夏なんで嫌いだーー!
俺はそう叫びたい思いで一杯だった。
夏なんて、なくなればいいのに……。
何度そう思った事か分からない。
何せ事実、俺には本当に夏に楽しい思いが無かったのだから。
何が原因かは分からないがナンパして、いい雰囲気になったとしても、何故か最後には見事なぐらい無惨にフラレるのだ。
今まで最強のフラれ方は、傷のある方々にタコ殴りにされ、半殺しの目に合わされフラレると言うコメディさながらのフラレ方であるのだが……。
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